劇場版名探偵コナン「緋色の弾丸」を見てきた【ネタバレあり】

先週・4月17日、春の風物詩であるところの、劇場版名探偵コナンの最新作「緋色の弾丸」を見てきたので、感想をまとめたいと思う。以下、ネタバレを多分に含むため注意。

今回は比較的辛口な評価をすることとなる。5点満点で、ミステリーとしては2点、アクションとしては3点、そして横浜市民としては5点満点である。

控えめな爆発とアクション

今作は、これまでの数作に比べて、爆発やアクションが控えめであったように思う。マリーナベイをぶっ壊したり、サミット会場を吹っ飛ばしたり、皐月堂をぶっ壊したりと、近年は派手な爆発が続いたが、今作では液体ヘリウムのクエンチを引き起こすためにリニアモーターカーの車体を吹き飛ばした程度であり、近年稀に見る爆発の少なさであったと思われる。他方、構造物の破壊という観点から見れば、病院・リニアモーターカーにおいてクエンチによる強烈な衝撃波を利用した点は、新しい発想であり評価できる点ともいえる。アクションシーンに関しては、リニアを止める作業とカーチェイスがあったが、後述の理由により、いまいち迫力に欠けたものであったと言わざるを得ない。コナン映画のアクションと爆発シーンについては、ともすれば「業火の向日葵」をはじめとして、静野監督期にやたらと乱用しすぎたせいで批判が集まりがちであるが、筆者はなかなか楽しみにしていたので肩透かしを喰らったような気持ちになってしまった。さて、爆発を控えめにしたのであればその分ストーリーに厚みが出るかと思えば、案外そうでもなかったのが本作であったと思う。

尺不足と伏線の不足

まず、「尺不足」について。本作の犯行動機は「WSGに関する15年前の冤罪(と思い込んていた)事件についての、FBIへの復讐」であった。そして実際にはこの事件は冤罪ではなかった、とされるのだが、まず、この冤罪という勘違いがいかにして生じたのかについての説明が不足していたように思う。結局アリバイがあったんじゃないの?等の疑問を解消するに十分な尺が取られていなかったように感じる。さらに、この「15年前の事件」に関する掘り下げが十分でないように感じた。オープニング(「俺は高校生探偵工藤新一〜」のアレ)前に十分に尺を取った割には、そこで終わってしまってストーリーの本筋に余り絡んで来なかった、というのが残念であったように思う。続いて、「伏線の不足」について。本作での犯人の特定は、リニアの車内においての一連のやり取りによって為されるわけであるが、そこまでの過程において、犯人を特定、するに足る証拠、あるいは犯人を推測するために十分である痕跡を示した場面が少なかったように思われる。以上から、突然犯人が分かってしまったという感じが出てしまっている。また、最終的にはエンジニアも共犯であることが明らかになるわけだが、それまでのコナン等の「犯人は男」という繰り返しの発言が、あからさまにミスリードを狙ったものであることが分かってしまい少し興ざめであった。

「同時進行」の功罪

本作は、本筋ストーリーの間に羽田・宮本のカットがしばしば挟まる形態、そしてクライマックスにおいてもリニアモーターカーの停止とカーチェイスが交互に挟まる形態であった。この同時進行が、本作においてはテンポを崩していたように感じる。同時進行という形態に関しては、前作の「紺青の拳」においては京極・園子とキッド・コナンの交互の割り振りが比較的機能していたので本作でも着想を引き継いだものと考えられる。しかし、前作ではクライマックスの海賊襲撃においてはマリーナベイ・サンズに集約される一方、今作においては最後まで2本のストーリーが同時並行で進んでしまっている。前作の方式であれば、クライマックスに向けて繋がり、盛り上がった感覚を味わうこともでき、大変効果的な演出であった一方、今作ではその感覚がないため、いまいち盛り上がりに欠けてしまった印象である。

素材は良いが…

その今作のクライマックス。犯人の井上をFBIがカーチェイスで追いつめるものと、コナン・世良がリニアモーターカーを頑張って止めるものの2つが同時に進行しているが、先述の理由により盛り上がりに欠けてしまった。その他にも、以下のような課題があるといえる。まずカーチェイスシーンについて。羽田秀吉が詰将棋になぞらえた先読みを行うことで犯人を追いつめるのだが、どのように追いつめていくかについての視覚化ができておらず、横浜市緑区・保土ヶ谷区・港北区の道路事情によほど詳しくない限り没入感を味わうことが難しかったといえよう。カーアクションそのものの書き方は「純黒」に劣らず迫力あるものであっただけに、大変もったいない。この場面は、将棋盤になぞらえた地図を半透明の電光エフェクトで、位置情報を将棋の駒になぞらえて示しながら追いつめる等したらよかったのではなかろうか。次に、リニアを止めるシーンについて。サッカーボールで無茶するのは恒例として、万国旗をパラシュート代わりに使うというアイデアも大変良かった。リニアモーターカーという設定上、時間軸がおかしくなってしまう可能性は否めないが、犯人確保→制御ソフトが壊れる→リニアを物理で止める、というような構えのほうがよかったのではないだろうか。また、今作では、WSGスタジアムからの避難がいともたやすく行われており、蘭や灰原なども完全に安全地帯である(鉄輪)新幹線から見ていたため、どことなく臨場感に欠けてしまったように思え、爆音サウンドでゴリ推していたように感じた。「純黒」の東都水族館からの避難や、「ゼロ」の人工衛星落としなど、多くの民衆を危険に晒してしまう状態からの回避があったほうが盛り上がったのではなかろうか。

「弾丸」はどこへ

リニアモーターカーについてもう一つ。事前の予告がそうであったように、本作の一押しは真空超伝導リニアであったはずだ。そして、その仕組みを活用した超遠距離・時間差狙撃というものは大変面白かった。しかし、病院でのクエンチ、それに伴った無乗客でのリニア走行となり、タイトルに使うほどの推し具合であったのにもかかわらず思っていたよりもリニアモーターカーがストーリー上で活躍しなかったといえる。そのため、物足りない感じが出てしまったといえよう。30分で東京までつく、ということをもっと利用して、何か面白いのがあればよかったのだが、この点に関しては仕方ないのだろうか。

「電車」のつかいかた

映画のコナンにおいて、電車をはじめとした軌道系交通機関というのは比較的良く取り上げられる題材といえる。記憶にある中では「時計じかけ」の東都環状線、「ベイカー街」の最後のSL、「迷宮」の叡山電鉄線、「鎮魂歌」のジェットコースター(これは軌道といえるのか?)、「15分」の副都心線地下鉄東都線、そして「ゼロ」のモノレールがある。さて今作のリニアモーターカーであるが、「ブレーキが効かない、終着駅の先に突っ込むと死ぬ、だから何とかしなきゃいけない」というシチュエーションは「ベイカー街」と同じで、そしてアニメーションの演出そのものは「15分」的であった。対処法こそ本作オリジナルであったが、以上の理由により、クライマックスではあるが過去作がチラつく場面となってしまった。「から紅」→「天国」の爆風加速のような、完全なオマージュとするにはいささか半端であるように思えた。ここもやはり、本作ではリニアモーターカーが外からの全自動制御とされていたことからも、「外から止める」という手法を取った方が良かったかもしれない。もっとも、たとえばコナンが電話で指示を出すとかだと、それはまた「時計じかけ」と同じではあるが。

結局、盛り込むべき要素が多すぎた

本作は赤井一家のそれぞれが活躍すること、そしてリニアやオリンピックの要素を盛り込むことなど、「必要な要素」が多かったように感じる。詰将棋カーチェイスや名古屋観光も、羽田を活躍させるために必要な要素で、かつ羽田を名古屋に送り込むための理由付けとして必要であったし、リニアの速度は遠距離・時間差狙撃を成立させるために必要であった。そしてFBIの活躍も、これらに正当性を与えるために不可欠であるといえよう。しかし全体を総括してみれば、必要条件の多さが仇になって、消化不良を引き起こしてしまったように思える。この消化不良感こそが、特に微妙と思ってしまった点の多くの原因であると筆者は考えている。

メインテーマについて

さて、筆者が劇場版コナンでひそかに楽しみにしているものが、メインテーマのアレンジである。今作に関しても、例年通り単品で聞けば非常にカッコいいと思う。しかし、入りがそこそこ地味であることから、映像と合わせて見ると「あれ?OP?」という感想を抱いてしまった。また、前奏の下行の音形を3+2で分割したアレンジは非常に新鮮味があって良いものの、初見では「あれ?メインテーマどこここ?」といった感想を抱いてしまう。また、間奏にあたる部分が完全に間奏となっている。前作「紺青」も間奏が比較的間奏感の多い感じであったので、最近の方向性だろうか?個人的には、「から紅」のストリングスや「純黒」のギターが結構好きだったので、寂しいといえば寂しい。
筆者はいちおう低音を10年ちょいやってる人間なので、ベースラインについて少し言及しておくと、「から紅」以後に付点・細かな音符を多用する傾向にあり、その傾向は本作も引き継いでいるといえる。「絶海」〜「純黒」のシンプルなベースラインもそれはそれで好きだが、最近の傾向も楽しいと思う。

横浜北部の出身者として

いや、もう!マジで興奮した!!!新港浜駅(←新横浜駅)の篠原口が完全に再現されていた辺りからテンションが上がってきて、第三京浜・首都高の港北JCTが忠実に描写されておりED実写パートにも登場、この辺りでもうすでに嬉しいのだが、梅田橋〜ららぽーと〜(出崎橋)〜鴨池大橋、そして梅の木〜(東川島町西)〜(羽沢IC分岐)〜(羽沢池辺線分岐予定地・羽沢貨物駅)〜新横浜陸橋〜陸橋下への詰将棋、これ「横浜市緑区・保土ヶ谷区・港北区の道路事情によほど詳し」い私にとってはもう大興奮ものですよ。しかも標識や線形、空撮も実物に比較的忠実に書いてあるし。まさか準地元がここまでコナンで大々的に書かれるとは思わなかった。いやマジで今作すげえよ。そして最後のジョディの証人保護プログラムの説得、確かにジョディが言うと深いけれど、そんなことより後ろを走ってる横浜線ですよ!!!明らかに9両以上あった(たぶん尺のバランス)けど横浜線がついにコナン登場ですよ!これはもう大ニュースですよ横浜線沿線の出身者としては!!強いて言うならば、新港浜駅新幹線ホームが1面2線なこととか、鴨池大橋の横に見えるようにリニア通したら多分ズーラシアとか四季の森公園とか無くなることとか、16号旧道はあんなに空いてねーよとか、まあ色々あるけど、あれだけ横浜の北部を描いてくれた点には本当に興奮しましたよ、「鎮魂歌」もみなとみらい・関内・八景島・横国大ぐらいだったし。

その他・小ネタなど

・浜辺美波の声優は普通に上手いと思った。誰がゲストかわからんかった。まあ榮倉とか遠藤とかと比べちゃだめだろうけど。
・棒読みキッズいなくなかった?
・博士クイズの使い方は新鮮で良かった。恒例要素を逆手にとるのはウマイ。
・新幹線車内の「指定席」が「siteiseki」なのは、そりゃないだろと思った。
・横浜町田IC / 東名川崎ICの標識が忠実で良かった。
 ・ってことはジョディたちは川崎から港北へ?K7でも使ったのか?でもカーナビには北西線区間なかったよ?でも、だとしたらあの距離30分じゃ着かないよ?
・名港トリトンが、西大橋だけ2本あることも含めて忠実に描いてあってよかった。
 ・だとしたら名古屋国際空港ってどう考えても常滑じゃなくて四日市沖にあるよね。
・「クエンチ」というワードが秒で分かっただろう化学徒の皆様。
・新幹線が青かったのは橙色の会社が許諾降ろさなかったのかしら。名鉄はそれっぽかったのに。

総括

本作は、素材やコンセプトはとても良かったものの、尺不足がが主な理由となり消化不良感が強くなってしまったことが残念だった。コナン映画に求められる要素を全部詰め込もうとした結果半端になってしまった感じがした。2、いや3時間越えてもいいからもう少したくさん見たかった。メインテーマは毎年カッコいいと思うよ。


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